桜の樹の下で
4月2日の横浜十日市場。
花の名は知らないけれど、青い空に映え白い花がとてもきれいに見えた。いつまでも見つめていたくなる可憐な花びら。
たくさん花が密集して、空に昇って行くような勢いの木もあった。
そして4月5日の日曜日、新型コロナウイルスの影響で大きな商業施設は休業状態。青空に誘われて、今日の夕食のおかずを買いに少し遠くにあるスーパーまで散歩した。
満開の桜が散り始めている。
桜の樹の下には名も知らぬ白い花が咲き、
この花は小さな子供がかわいらしく頭を下げているように見える。
歩道の端にはスミレの花。濃い目の紫色の花を咲かせている。
「かたまつて薄き光の菫かな」 (渡辺水巴)
買い物袋をぶら下げて、南湖(なんご)という古い漁師町の小さな通りを歩いていると、風呂屋に廃業の張り紙があった。
いい造りの建物ではないか。
母と娘で切り盛りしていたそうだが、後継者がいなかったか。昭和の時代は、よく銭湯通いをしたものだ。
東京都内では、改装したりあれやこれや工夫して、元気に頑張っている銭湯もあるけれど、経営はこの時代厳しいことだろう。
高い煙突は、まだ働きたいと言っているようだ。
通りから見事な桜の樹が見えたので、妻と塀越しに「きれいだね。」と見とれていると、家の勝手口に立っていた方から「どうぞ中に入って観て行って下さい。」とお声をかけられた。
桜の樹はさほど高くないが、様子がいいのと花が元気よく濃密に咲き誇っている。
「カメラのシャッターを押しましょうか?」と、意外なお言葉に甘え撮っていただく。
桜の樹の下で、紅の豚次郎とその妻。
私たちはお礼を申し上げ塀の外に出た。道なりに正門の方に向かうと「金剛院」の表札が出ており、門の奥に本堂がある。
高野山真言宗総本山金剛峯寺の直系。「心がふらついてはならない」と書かれたポスターがお寺の掲示板に張られていた。妻がそれを読み上げて「ハイ、承知しました。」と私がつぶやく。
先ほど写真を撮っていただいた方は、この寺の住職さんだったのか。ずいぶん自然な雰囲気の方。
私たちは、桜の樹の下でお布施を頂戴したのだ。ご縁をいただき有り難うございました。
「惜春や捨て去りしもの得たるもの」 (昭和41年鈴木真砂女)