小田原そぞろ歩き…私の大事な人

  「冬寒し冷えてゐぬかと手を握り」 (沢木欣一) 

 常盤木門を過ぎ天守閣が聳える広場まで上がって来た。これから小田原城、報徳神社、種秀、籠清本店、御幸(みゆき)の浜とご案内しましょう。少々長くなりますが、暖かい一日が皆様に届きますでしょうか。

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 2月も半ば、梅が見たいと言う妻と車で小田原城に向かった。

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 ところが、盛りを過ぎたのか元気のよさそうな梅が見当たらないので、この蠟梅(ろうばい)を撮った。枝に結ばれている短冊には、俳句が毛筆で書かれている。風情のあること。

 俳人藤田湘子の出身地小田原は、俳句が盛んである。街角の商店の入り口には、句会に参加しませんかという張り紙もある。

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 さてこの建物は、二の丸跡に建てられた小学校の旧講堂で現在は歴史見聞館となっており、小田原とゆかりの風魔忍者の資料が集められている。

 玄関前には、よく観光地で見かける顔の所をくりぬいた忍者の看板が置かれていた。ちょうどそこに来た幼稚園児たちは、順番で写真を撮ってもらおうと大はしゃぎである。 

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 この、幹が左巻きにねじれた木は、イヌマキの木である。高さが20m、幹回りは4.5mあるという迫力のある姿だ。

 そして小田原城。花見の名所でもある。

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 この小田原城の下に、二宮尊徳を祭った報徳神社がある。

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 あとで気づいたのだが、これは裏門にあたる門だった。

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 ともあれ参拝し、二礼二拍手一拝。      

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 なじみのある二宮金次郎の像。昨年、山梨県清里に行った時に目の鋭い金次郎像に出会ったが、そちらも開墾地に建てられたものだ。

 大人になった尊徳像も建っている。身長は180㎝位あったそうだ。

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 二宮尊徳の主張した「報徳思想」で、こちらには「至誠と実行」と書かれている。      

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 こちらは「譲って損なく 奪って益なし」。近頃の世の中に欠けている思想だ。

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 小田原城のお堀のそばにある、御感(ぎょかん)の藤棚の下に水仙が残っていた。花言葉は、欧米では「希望の象徴」。

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 この「御感の藤」の前の通りに面して、小学校がある。外観は城に似た瓦と白い外壁で仕上げられ、目を引く建物である。

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 校門のそばに、沈丁花(じんちょうげ)の花が咲いていた。 

 一緒に歩いていた妻は、「いい香り」と言って顔を上げ目をつむった。 

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 「沈丁の香の強ければ雨やらん」 (松本たかし)

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 車の通りも少ない道をそぞろ歩くと、ういろう本店の裏側に出た。国道に面した表の構えも堂々としたものだが、

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裏側の方が、まさにお城の感。残念ながら水曜日でお休み。またまた、美味しいういろうを食べ損ねた。

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 それでは、忍者が壁をよじ登っているお店、種秀(たねひで)に行こう。ここは最中専門店。もち米で作った皮は、いつもパリパリで香ばしい。美味しい小田原城最中と応対の素敵な若女将。

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 続いてなりわい交流館の角を曲がって、かまぼこ通りにある籠清本店。建物が歴史を感じさせ面白い。     

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 店内にはお雛様が飾られていた。手前のショーウインドーにはきれいな蒲鉾が並べられ、目移りすること!妻は店内をあちらこちらへ。

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 私達二人は、揚げかまぼこを注文した。小腹が空いたので、歩きながら食べるつもりだった。しかし、外に出ると何やら気恥ずかしく、二人して電柱の陰でアツアツのかまぼこをほおばった。

 海の近くの通りは人がほとんど通らず静かだったのに、私達、こそこそと何してんだろう。

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 御幸の浜に出るには、西湘バイパスが上を通るこの暗いトンネルをくぐって行く。

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 眩しい御幸(みゆき)の浜。円い大小の石ころがゴロゴロしている。

 金子みすゞの「浜の石」という詩を思い出す。

 「浜辺の石は玉のよう、みんなまるくてすべっこい。(中略)

  浜辺の石は偉い石、皆(みんな)して海をかかえてる。」

 波に削られた無数の石に支えられ、私はここに立っている。

 妻を見ようと振り返ると、彼女は石ころ探しに夢中になっていた。

 この数年、彼女には私の母親のことでずいぶん苦労をさせてしまった。突然のように我が家に転がり込んできた私の母親。お金のことから介護に関わることまで、彼女は一つ一つ自分の中で消化していかなければならなかった。

 困難と思っているうちは修羅場と思うこともあったが、二人で覚悟を決め受け入れると、以前は困難だったこともスムーズに流れだした。

 結局、私達の生活のことや母が足を骨折し常にそばにいて介護することが必要になったこともあり、特養に入所することになった。思い返すと、まるで何かの力でその方向に導かれるかのように進んでいった。

 今、特養老人ホームで生活する私の母は、数々の人生の波を乗り越えて、おそらく本心は不本意かも知れないが、落ち着いた穏やかな表情で見舞いに行った私達を迎えてくれる。

 しかし、私達夫婦のいさかいの中にいた母が一番辛かったかな。

 そんな万感の思いを、打ち寄せる波がかき消してくれるようだ。

 海辺で遊ぶ妻を見て、「あー幸せな一日だ」と思えずなんとしよう。         

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 これまで、手をつないで一緒に歩くなんてことは一度もないけれど、私のとても大事な人よ。

 共にこの街をそぞろ歩き、無心に石ころを集める君を見つめていると、思わず笑みが浮かんでくる。

 有り難う。連れ添ってくれて有り難う。

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 「押し合うて海を桜のこゑわたる」 (川崎展宏)