紫陽花の花輝いて

          

 「あぢさゐの藍をつくして了りけり」 (安住 敦)

 

 7月の盆入り前の日曜日、お参りに来られた方が生い茂った雑草に驚かれると嫌だから草むしりに行こうと墓参りに出かけた。

 いつもは8月の旧盆にお参りする習慣だった。

 この日の墓地は、人が少なく静かな雰囲気だ。曇り空が夏の乱暴な光線を遮り、木々の間を渡る風が心地よい。

 聞き慣れぬ鳥の声が響き渡る中、お墓はすでに小ぎれいに掃除され色鮮やかな花が飾られていた。

 少なくとも一日か二日前に、私たちより早くどなたかがお参りされていた。

 「どなたが来られたのだろう」

 姿の見えぬその方のことを考えつつ、線香を手向ける。

 あちらこちらから鳥の声が聞こえ始め、合唱となった。

 

 妹の墓にそっと花を手向ける方がいる。

 

 妹が亡くなってから知ることが多かった。

 妹は普段は障碍者施設で社会復帰を目指す人たちのために働き、死の3年位前からは病院のホスピスで患者さんとそのご家族の「こころを聴く」ボランティアとして活動していた。

 妹がそのような仕事をしていたことを、私はほとんど知らなかった。そのようなボランティア活動をしていたことは全く知らなかった。そして、妹の周りにたくさんの人がいたことを、私は妹がいなくなってから知った。

 終わりかけた紫陽花が、「さようなら」とお辞儀をしているように見えた。