秋の留まる町にて
「老いてこそなほなつかしや雛飾る」 (及川 貞)
「秋の留まる野」と書いて、秋留野。現在のあきる野市。その武蔵引田(むさしひきだ)という町に初めて訪れた3月中旬。
とんがり帽子のような山が、春を呼んでいる。
これは何という山だろう。ぽこんと頂上が出てるのが特徴。東京の最高峰の山は2,017mの雲取山だが、遠くから眺めた写真がないので分からない。突き出た山頂の形から1,267mの大岳山(おおだけさん)ではと考える。「鍋割山」とか、最近では「キューピー山」という愛称があるそうだ。
そして引田駅の駅舎内には、市役所行の緑色ポストがある。住民の利便を考えてのアイデアだ。あたたかい行政だ。
お迎えの車が来るまでに、すっかり長閑な気持ちになってしまった。今日はこれから娘の嫁ぎ先を訪問する。
昨年の11月に生まれた長女のお食い初めの祝いに招かれた。嫁ぎ先のお家にとっては初孫。
冒頭のお雛様は、招じ入れられたお座敷で拝見した。曾祖母は「120年前から飾られているんですよ」と、おっしゃられた。お雛様の表情に過ぎた年月の長さ、古さは感じられない。大事に守られてきたのだろう。
お食い初めの式は、楽しく過ぎた。多くの人に囲まれて、初孫は箸の先についた米粒を食べようとする仕草を見せ、思うように口に入らないと大きな泣き声を上げた。
このような光景を見て、お雛様も喜んでおられたに違いない。
縁側には、七段飾りのお雛様も飾られていた。
ここのお家のお嬢さんが、小さい時に作ったお飾りも並んでいる。
「なほなつかしい」ことである。
「来ることの嬉しき燕きたりけり」(石田郷子)
今年初めて見た燕の姿だった。
人々が、あたたかいものを大切に腕の中に抱えて生きている町だった。