瓦そばをご存じ?
「山茶花は咲く花よりも散つている」(細見綾子)
立冬となって、山茶花の花を探してみた。赤い花はなく、通りすがりにやっと日陰で見つけた。なんとなくしおらしいというか、元気がなく儚げに見えた。
花言葉は、「困難に打ち克つ」「ひたむきさ」とあるが、白い山茶花は別に「愛嬌」「あなたは私の愛を退ける」という。
『さざんかの宿』
「くもりガラスを 手で拭いて
あなた明日が 見えますか
愛しても 愛しても
あゝ 他人(ひと)の妻
赤く咲いても 冬の花
咲いてさびしい さざんかの宿…」(作詞 吉岡治)
冬の入り口となったこの時期、意外に花が元気よく咲いていた。名前がよくわからないものがたくさんある。
菊に似ていると思ったが、写真を見せると妻に「違う」と言われた。本物の菊にしては少し小さいようだ。
「冬菊のまとふはおのがひかりのみ」(水原秋櫻子)
これも何という花か。陽を浴びてかわいらしく群生している。
これは、「千両か万両か」と再び妻に尋ねたが、そっけなく「実際に見てないのでわかりません」と言われそれっきり。万両としておこう。
「万両や癒えむためより生きむため」(石田波郷)
さて、本題。「瓦そば」は山口県川棚温泉の名物料理である。特に中国地方や北九州ではご存じの向きも多いだろう。
なかでも「高瀬」の瓦そばが有名で、筆者は40年位前に初めてこの店に行った。広い座敷にいくつもテーブルが並んでいる所に通され、座布団に座って食べた記憶がある。
秋冬の食べ物と思うけれど、記憶に残っているのは縁側が大きく開けられて涼しい風が通り、風鈴が鳴っていたような場面である。
何と言っても珍しいのは、本物の瓦の上にそばや具材が載っている点だろう。迫力がある。アツアツに熱した瓦が野趣豊かだ。
カリカリに焼かれた茶そばが美味しくて、口に入れるとすぐに次のそばを掴もうと箸が伸びる。その味に癖になってずいぶん通ったものだ。
こちら関東に来てからは、妻が自宅で作ってくれるようになった。
写真では、熱いフライパンの上に茶そばを敷いてその上に牛肉、錦糸卵、青ネギ、海苔、輪切りレモンに載った紅葉おろし。
これを出し汁(カツオ出汁など)に浸けて食すのであるが、紅葉おろし(大根に穴を開け、その中に唐辛子を差し込んで下ろしたもの=写真は唐辛子を用意できなかったので七味を混ぜた)は先に汁に入れておく。 ※お店のおすすめでは、茶そば、具材をつゆにつけてから紅葉おろしとレモンを入れる。
ポイントは、茹でた茶そばを焼そばのようにカリカリに焦げ目をつけること。だから、フライパンは強い火力で熱する。
そして、肉は和牛がおすすめ。輸入物と違って風味がよい。
そう考えてみると、この瓦そばの具材の取り合わせというのは、よく考えられた完成品だということがわかるのである。
これは一人で食べるものではない。二人以上で食べると美味しい。
家族や友人知人と瓦(もしくはフライパン)を囲んで突き合うのは、瓦そばの醍醐味というものである。
※11/10 瓦そばの店名を「高瀬」と変更しました。